チョッキリ-森の中で不思議にコナラの枝先が落ちてくる怪奇現象、そして虫と植物の巧みな知恵比べ
8月に雑木林で仕事していると,コナラの枝先が,2~3枚青い葉を付けたまま,たくさん落ちてきます。
拾い集めてみると,ほとんど同じ長さ。葉っぱの枚数もだいたい一緒。そんなところは地面にも沢山落ちています。葉が落ちるにしては青い元気な葉が落ちてくるし、どんぐりが必ずついている。どんぐりもまだ青いのでなんかの仕業だなと前に調べてみたことが有ります。
明らかに切り落とされたような切り口。
一体,何者がこんなことを……?
夏の雑木林、突然ドングリが枝ごと落ちてくる。実はこれは、ある生きもののしわざでした。
ゾウムシの仲間、ハイイロチョッキリ。枝をちょっきり切り落とすことからチョッキリ、いい名前ですね。
ハイイロチョッキリは、ゾウムシの仲間、長い口の先に丈夫なあごを持っており、このあごでドングリに穴を開けて、そこに卵を産みつける。産卵が終わると、今度は枝を切り落とすそうです。ドングリに穴を開けてから枝を切り落とすまでは3時間以上もかかってる大仕事だそうです。
ハイイロチョッキリの仕業って証拠は,すべての枝に,ドングリの若い実がついている事。ドングリに産卵した後,枝を落とすから。そしてドングリにしっかり,産卵した跡があります。ドングリを含む枝先を,短く切り落としています。どの枝もこのような位置で切れている,明らかに切り落とす位置を狙っています。成熟前の,まだ果皮のやわらかいドングリに穴を空けて卵を産んでます。
なぜ,ハイイロチョッキリはドングリを落としてしまうのか?
同じようにコナラに卵を産むシギゾウムシの仲間なんかは,卵を産んでもドングリを落とさず,その幼虫はドングリの中身をしっかり食べて,秋に落果してから外に脱出し,蛹になる、ドングリから,より多くの栄養を手に入れるならば,シギゾウムシのやり方のほうが有利なんだけど。。。
その謎を解くヒントは,チョッキリに近い,オトシブミの仲間の行動でありました。
オトシブミの仲間は20種類以上いて,別名「葉巻虫」といい、この時期新緑の柔らかい葉をくるくる丸めて卵のゆりかごを作る虫です。葉を巻きその中に卵を産み、「ゆりかご」をつくります。その卵を入れた「ゆりかご」を,どうするか……
エゴノキの葉を巻くエゴツルクビオトシブミは,葉を完全には切り落とさず,木に残しますが,コナラやクヌギの葉を巻くオトシブミは,「ゆりかご」を切り落としてしまう。まさに文字通り「落とし文」になるわけです。昔の人は良い表現しましたよね。
エゴツルクビオトシブミのゆりかご。葉を部分的に切り残し,適度にしおれさせた葉を巧みに巻いています。なぜ,ゆりかごを落とすものと落とさないものがあるのだろうか?
その理由として,木の生体防御機構が関係していると言われています。
植物は,単に虫に食われるままになっているのではなく,虫にかじられた葉の切り口から,傷が無いときには出なかった,非常時だけ特別に分泌される物質が生産されると言います。その中には,葉を食う虫の成長を阻害する物質を出したり,葉を食う虫の天敵を呼ぶフェロモンの物質を出す例もあるそうです。
一例でいえば,キャベツがモンシロチョウの幼虫に葉をかじられると,その傷口から出るフェロモン物質を頼りに,天敵であるアオムシコマユバチが飛んできますね。
コナラの場合,葉っぱの傷口からオトシブミの幼虫の成長を妨げる物質を出すので,オトシブミは,ゆりかごを完全に切り落として,幼虫をコナラの葉から出す毒から守ると考えられる。
一方,エゴノキは葉を切り落とさなくてもエゴツルクビオトシブミの成長に影響が出ないから、より安全で有利な葉を落とさない方法が使えるのです。
ハイイロチョッキリは枝を切り落としてコナラの出す毒からいち早く逃げるのが生存のための知恵だったと考えることが出来そうですね。
植物と虫の共生関係には複雑で巧みな力関係や長い年月をかけた相互のやり取りによって出来上がった特別の関係が見られることが少なくない。持続可能なサスティナブルな活動。
防虫剤に使われる「樟脳(しょうのう)」の成分を含むクスノキの葉をアオスジアゲハの幼虫は、平気で食べる。他の虫が手を付けなかった葉を利用することが出来ると言う特殊能力が、アオスジアゲハの生存に有利に働いていると考えられます。
このような複雑な「力関係」がチョッキリやオトシブミの世界でも見れるし、自然界にはたくさんあります。何一つ無駄はない自然の世界すばらしい。
多様な生き物が複雑に絡み合って生きている生態系。特に、種類の非常に多い昆虫の世界では様々に特殊化した生態によって、多くの種類が生存できるように進化しきた考えられますね。
NHKの動画より引用 チョッキリ
http://www2.nhk.or.jp/school/movie/clip.cgi?das_id=D0005401434_00000
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